夜明け前の海辺。
中学生の江都は、もうほとんど動けなくなった都村弥子を背負って歩く。
――144日前、彼女と出会った日の事を思い出しながら。
この記事は、斜線堂 有紀さんの小説:「夏の終わりに君が死ねば完璧だったから」の感想を書いたものとなります。
夏の終わりに君が死ねば完璧だったから
「夏の終わりに君が死ねば完璧だったから」は、メディアワークス文庫から出版された文庫小説です。
作者は斜線堂 有紀さん。
表紙はライトノベルでありそうなイラストが描かれていますが、本編では挿絵等は一切ありません。
ただ、ボリュームは256pとそれほど多くもないのでライトノベルのように読むことが出来ます。
あらすじ
物語の舞台となるのは「昴台」という人口千人程度の山に囲まれた小さな集落。
中学生の江都 日向(えと ひなた)は、家庭環境に深刻な問題を抱えながら生活をしていた。
日常の中で希望を見いだせずにいた彼は❝ある病気のために建てられたサナトリウム❞で、療養中の女子大生・都村 弥子(つむら やこ)と出会う。
「チェッカー」と呼ばれるゲームを通じて距離を縮めていく江都と弥子。
しかし、二人にはお互いに言えない「秘密」があるのだった――。
構成
本編中の視点は全て江都のものからであり、彼から見た昴台や友人、大人たち、そして弥子が描かれています。
時間軸が今→過去→今→過去といった感じで頻繁に変化します。
(本記事の)冒頭部分は本編ではクライマックスの場面にあたり、そこから物語の始まりである「144日前」が始まるといった感じです。
そして徐々に過去から現在へと近づいていき、そこで読者は二人に何が起き何をしようとしているのかが分かるような構成になっています。
特長
この作品でもっとも注目したのが「金塊病」という架空の病気でした。作中でもかなりの難病として描かれており、発症例も少なく治療方法も見つかっていません。
金塊病の症状は名前の通り、❝人体が徐々に金へと変わる❞といったものです。正しくは「金の様な何か」なのですが、構成成分からして「正真正銘の金」として扱われています。
無論、金へと変わった箇所は動かなくなりますし、そこから体に広がるため症状が出た場合切除しなければなりません(それでもまた別の部位に症状はあらわれます)。
仮に心臓がそうなった場合そのまま死に至ります。
ストーリー的に「難病で余命いくばくもない恋人の死」による❝泣き・感動❞というものを想像してしまいますが、「死後、体が金へと変わる」というのがそれを抑えてくれています。
つまり、その愛が「金のためではない」と常に証明し続けなければならないからです。
この点は似た作品には無い大きな特徴だと思いました。
感想
そもそもこの作品を読むきっかけは「蠱惑の本」というアンソロジーホラー短編集で、そこに斜線堂 有紀さんの作品も掲載されており、「もっとこの人の小説を読んでみたいな」と思ったからです。
「夏の終わりに君が死ねば完璧だったから」は普段は絶対に手を出さないようなジャンルです(恋愛小説とか)。こういう「ヒロインが余命すくないTHE悲劇・悲恋」とか嫌いなんですよね。
最初は失敗したかなと思いましたが、先に書いた「金塊病」がその辺りを良い感じで歪めてくれていました。
大体このジャンルは『自分』と『恋人』の二者間での問題とか試練とか……そういうのを乗り越えていくものでしょうが、「金塊病」によって『他者』が大きく絡んできます。
恋人が死んで金になった時、他人が黙っていないわけですよ。それこそマスコミ・友人、さらには親まで。
作中でも❝その愛が真実であることを常に証明し続けなければならない❞というセリフが登場します。そして死後は❝永遠に❞それを証明し続けなければならなくなります。
この「嫌らしさ」が恋愛小説にありがちな「純粋さ」とか「はかなさ」なんかを打ち消してくれてたと感じます。
終わり方はけっこう好きで、暗さや湿っぽさはほとんど無く「そうなれば完璧だっただろうな」と苦笑するようなものでした。
書籍情報
・発売日:2019/07/25頃
・著者/編集:斜線堂 有紀
・レーベル:メディアワークス文庫
・出版社:KADOKAWA
・発行形態:文庫/電子
・ページ数:256p
・必要読書レベル:☆☆
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