小説「新世界より」を読んだ感想

 あの日――全人学級の夏季キャンプで『ミノシロモドキ』を見つけなければ、私たちの運命はどれほどか変わっていたのだろうか……。

この記事は、貴志祐介著「新世界より」の文庫版(上・中・下)を読んだ感想等を書いたものとなります。重大なネタバレはありませんが、気になる方は注意して読んでください。

「新世界より」

 「新世界より」は貴志祐介さんが書いた長編小説作品で、ジャンルとしては❝SF❞や❝和風ファンタジー❞等に該当します。

 構想二十年原稿用紙約二千枚という貴志祐介作品の中でも群を抜いて力の入った作品となっています。

 以下書籍情報。感想は次の項目からとなります。

・発売日:2011/01/14頃

・著者:貴志 祐介

・レーベル:講談社文庫

・出版社:講談社

・発行形態:単行本/文庫

・必要読書レベル:☆☆☆

読書レベル☆☆☆は、短編小説やライトノベルを読むことが苦では無いことに加え、特殊な描写(主にホラーやエログロ系)があっても平気な人向けになっています。※独断と偏見で決めているので気にしなくても大丈夫です
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あらすじ

 全人類が「呪力」とよばれる❝超能力❞を手にしたはるか未来――。

 主人公・渡辺早季も12歳になった頃に呪力に目覚め、その力の使い方を「全人学級」という学校で学びはじめる。

 「和貴園」(小学校)でも仲の良かった瞬、覚、真里亜、守の四人と班を組み呪力について勉強し、毎日を楽しく過ごす早季。

 そんな早季たちにとって、最大のイベントが❝夏季キャンプ❞だった。

 班の人間のみで行動し、キャンプを張りながらカヌーで利根川をさかのぼる……奇妙な生物の観察、夜には満点の星空を眺め、早季は生涯忘れえない思い出をこの夏季キャンプで作ることとなる。

 平和で、のどかで、全てが完璧な世界だった。

 「ミノシロモドキ」と遭遇し、この世界の真実を知るまでは――。

構成と特長

 「新世界より」は上中下巻の三つで構成されており(文庫版では)、36歳となった渡辺早季が自らの経験を(未来の人類のために)手記として残し、その内容を読んでいくような形となっています。

 上中下と順番に時系列順になっており、上巻では早季の子ども時代(12歳)の話、中巻は14歳下巻は26歳といった感じで明確に区切られています。

 また年齢だけでなく、上中下それぞれで小説のジャンルが変わるように感じるのも特長です。

 上巻・中巻は牧歌的な雰囲気はありつつも、冒険小説の様なスリルと和風ファンタジー的な要素が強いです。下巻は一変してホラー色が強くなるため、かなりの長編でありながらも飽きずに読み進めることができます。

世界観

 舞台は今から千年後の未来、全ての人類が❝呪力❞と呼ばれる超能力を扱える時代となっています。

 ただし人類の人口も世界的に激減しており(日本の人口は5-6万人)、主人公たちの住む日本もいくつかの町が点在するのみでそれぞれの町どうしが連絡しあったりすることはほとんど無い状態です。

 はるか未来ではあるものの、文明は一度滅び人々の生活水準は現代よりも低くなっています。ただし、❝呪力❞を使うことによって不便さなどは全くありません。

 主人公・早季の住む『神栖66町』(現在の茨城県神栖市あたり)は約3,000人が生活していて七つの郷から構成されています。

 町は『八丁標(はっちょうじめ)』という注連縄で囲われていて、子ども達はけっしてそこから外に出てはいけないと厳しく教えられています。

 また、人類同様に生物も大きな変化が見られ、町の内外に奇妙な生物が多数存在しています。

タイトルの意味

 タイトルの「新世界より」は、はるか未来の人類たちの物語からという意味もありますし、作中にドヴォルザークの交響曲第9番『新世界より』の第2楽章『家路』が使われていることも関係しています。

用語

バケネズミ

 ハダカデバネズミが進化されたと言われる生物。大きな個体では1メートルを超えるものもいる。

 人類との関りは深く、人間のことを「神様」と呼んで崇拝している。智能は高く、上位の個体は人間の言葉も流暢に話す。

 山海の幸や役務を提供することで人類に生存を認められている。

 作中でもかなり重大な存在となる。

ミノシロモドキ

 名前の元々の由来は❝ミノシロ❞という別の生物から。

 ミノシロに擬態しているが、正式な名称は❝Panasonic 自走型アーカイブ・自律進化バージョンSE-778HΛ❞。

 生物というより千年以上活動している機械であり、人類のこれまでの膨大な知識を内蔵した自律・自走型アーカイブ。

 早季たちは夏季キャンプでミノシロモドキと遭遇し、この世界が呪力により文明が崩壊した世界であることを知る。

攻撃抑制

 作中の人類すべての遺伝子に組み込まれている❝人を攻撃できない❞機構。

 人の攻撃的な衝動を抑える。

 強力な❝呪力❞を持つ人間同士の争いを避ける役目がある。

愧死機構きしきこう

 「攻撃抑制」と同じく、人類の遺伝子に組み込まれている。

 直接的・間接的にでも❝人が人を攻撃した❞と脳が認識すると発動する。始めは吐き気や眩暈などを引き起こし警告するが、それでも攻撃を止めない場合はその人間を死に至らせる。

悪鬼

 作中、人類がもっとも恐れる存在のひとつ。

 正式には「ラーマン・クロギウス症候群」という精神病質者を指す。

 悪鬼は❝攻撃抑制❞と❝愧死機構❞が機能しないため呪力で人間を殺害できる。

 通常は人間が人間を殺害することは出来ないため、悪鬼が出現した場合、これを止める手段はほぼ無い。

業魔

 悪鬼と同様に人類がもっとも恐れる存在。

 正式には「橋本・アッペルバウム症候群」という病気の重篤患者を指す。

 無意識に自身の呪力を漏出し、周囲の生物や無生物を異形化させてしまう。治療法は無い。

感想

 「新世界より」はアニメを視聴(2012~2013年放送)していたこともあり、大まかな展開や結末自体は知っている状態でした。

 読もうと思ったキッカケは作者の貴志祐介さんの作品が好きだったのと、アニメの印象が強く残っており、いつかは読んでみたかったからです。

 ただ、上中下巻というボリュームと既にどうなるか分かっている状態でキチンと読了できるか不安ではありました。

 最終的な感想を述べるなら「そんな不安は杞憂だった」とだけ書いておきます。

 貴志さんの作品で共通している面白さは❝メイン以外の情報の濃さ❞だと考えています。

 今作でそれに該当するのは千年後の人類はもちろん、そこに生きる動植物も大きく変化している部分です。実在する生き物をモデルにしているため、設定が妙に生々しく気持ち悪さと不快感・嫌悪感を誘発していました。

 ❝攻撃抑制❞と❝愧死機構❞もギミックとして面白かったです。どちらも人類がお互いを攻撃できないためのもので、これがあるので「新世界より」の人類は僕らの世界とは比べ物にならないくらい❝優しい❞です。

 子どもの頃からそのような教育(悪く言えば❝洗脳❞)を行っているのですが、それをしなければ確実に人類は滅ぶと理解できる――その気持ち悪さですよね。

 そして、この二つの仕組みを利用された時の怖さ……。

 元々ホラー小説が好きなのでそういった部分でグイグイと引き込まれ、下巻でそれが一気に加速した時はもうたまらなかったですね。

 アニメを観終わった後はそういう嫌悪感の方が大きかったのですが、小説だとどこか切ない気持ちを抱きました。

 また、アニメの完成度の高さも再認識できました。貴志さんのあの形容しがたい気持ち悪さをよくあそこまで描けたな、と。

 興味のある方はぜひ小説、アニメどちらも確認してみてください。

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 それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。

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